「 またやってしまったか、、、 」
目が覚めるとあんなにたくさんいた他の乗客たちは誰一人としていなかった。 いつの間にか、一人になっていた。 目をこすりながら車掌に目をやると「 やっと起きたか、、、 」と言いたげな面持ちで言った。 「 もうキトのバスターミナルに着くよ 」 時計に目をやると、夜の11時を指していた。 普段はきっとたくさんの人でごった返しているであろうバスターミナルも、夜の11時とあっては不気味なぐらいひっそりと静まり返っている。 今日の仕事を終えた古びたバスたちの合間をぬいながら、少し小走りに僕はタクシーを探した、、、 初めての土地に夜中に到着するのははっきり言って良くない。 道もわからず、治安もわからず、ましてやその時の現場の状況さえわからないのだ。 24時間オープンの国際空港にでも到着するのなら話は別なのだが、ここは南米。 しかも、強盗の噂が絶えないエクアドルの首都、キト。 好ましくない状況にいるのは明白だった。 今までの経験から、なるべく深夜着を避けてきたものの、今まで何も危険な目に合わなかったことが、僕を粋がらせてしまったのかもしれない。 インドのバラナシには9時過ぎに。 エジプトのカイロにはちょうど夜の12時に。 スペインのマドリッドには深夜4時に。 今まで大丈夫だったからといって、今回も大丈夫、、、 などという考えがあるわけでもないわけでもないのだが、いつもなんとなく直感で行ってしまっていたのだ。 自分に正直になると、はっきり言って危ないのだからやめた方がいいのは百も承知なのだが、つい恐いもの見たさというか、、、 行ってしまうのだった。 持ち前の負けん気が余計なところで強く出てしまう時だ。 そして、今回もそうだった。 例に漏れず何もないよくある感じの国境の町にて、一泊するのをどこか渋っている僕に抜群のタイミングで声をかけてくる乗合タクシーのおじさんの勧誘に勧められるまま国境を越えてしまった。 越えてしまえばもう行くしかないので、腹をくくって深夜着とわかりきっているバスに乗り込んだ。 深夜着と承知しているにもかかわらず、車掌さんにキトへの到着予定時刻を聞く自分に後ろめたさを少し感じた。 が、しかし僕は昔から「 話を聞かないお子さん 」なのであった、、、 こういう時の人選びは大事だ。 その人にほんの一時とはいえ僕の旅の全財産を委ねることになるのだから、慎重にならざるを得ない。 いつも揉め事が絶えないことから好きではないタクシーの運ちゃんも、こういう時ばかりは頼りしてしまう。 というか、他に手はないのだからしょうがない。 こういう時は決まって少し年配の人を選ぶことにしている。 何故かというと、そこまできちんとした根拠は何もないのだけれど、若い輩は万国共通で駄目だ。 平気で嘘をついたり、揉め事を起こしたり、脅したり、と。 大概、宿に着くまでに何かしらのトラブルに陥る可能性が高いと思う。 いつもお金のことばかり考えているからだろう、と思っている。 それに比べれば年配の人の方がもう少し信用が出来る。 家族がちゃんといる人なんかは特に信頼出来るのではないかと思っている。 もちろん、人によるが、、、 それでも、力ずくで何か悪いことをされる危険性は若い輩に比べてぐぐっと低いと思う。 ということから、僕はいつも年配の人を選ぶことにしている。 ガラス窓越しに見えるキトの街の第一印象はちょっと神秘的だった。 旧市街にある宿までの道のりには、いわゆるコロニアル風の建物がいっぱいで、それら全てが暖かみのある街灯に照らし出されていて、普段はきっと寒々とした感じのする石畳の道さえも暖かいもののように見えた。 夜遅すぎたこともあったことから、街に人影は皆無だった。 宿のあるサンフランシスコ広場の一角に着いた。 教会の前に広がる大きな広場にでさえも人影は見当たらず、ほんのり赤みを帯びた石畳が広がっているだけだった。 そこに広がる光景はとても幻想的で、僕がそこに居合わせた時間がほんの少し違うだけで、こんなにも街の風景は違うものなのだなと一人感慨深くなってしまった。 それと同時に、その瞬間に、その空間に一人でいることの虚しさと怖さを何故か感じていた。 ここがゴーストタウンと言われれば信じてしまいそうなほど、街はひっそりと静まり返っていた、、、 宿へ急ぐことにした。 アテにしていた宿は、コロニアルな建物の中にある。 大きな建物の割りには、酷く殺風景なドアをガンガン叩く、、、 が、何の反応もない。 と、同時に一気に恐くなった。 もしドアが開かなかったら、どうしよう、、、 「 首絞め強盗 」で有名な街、キト、、、 どうなる今夜の運命は? Copyright (C) HITOSHI KITAMURA All Rights Reserved.
by hitoshi280477
| 2004-11-03 19:01
| Equador
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