乗客を集めるのに一時間半程待った挙げ句、押しがけでエンジンをかけるのを手伝い、その車が乗客全員を置いて何処かへと行ってしまったのを待つのに追加の三十分を加えて、やっとタンバクンダの街を出発した。 せっかく早起きして来たのに、乗客が集まらなければいつもこんな感じだ。 慣れてきたとはいえ、やっぱりその待ち時間は苦痛だ、、、
ギュウギュウ詰めの車は、いつ止まってもおかしくないような細い息をあげていたが、何とか三時間後には国境の街に着いた。 時間はかかったが、とりあえず車の故障が何もなかったので良しとしよう。 故障があったら、とんでもない時間を無駄にしてしまうから、それがなければ万事OKなのだ。 イミグレの事務所の前で降ろしてくれたので、他の乗客と一緒に事務所へと向った。 今回の出国のスタンプは特に何の問題もなく、至ってスムーズにもらえた。 しかし、「 早く事務所を出て行きなさい 」というようなことを言われたので、外に出て、実はこっそり中の様子を見ていると、一緒に来た他の乗客たち(地元民)は、いくらかのお金を担当官に渡しているようだった。 もちろん渡したくて渡している人は誰もいないのだっ! 餌(賄賂)を要求しているということだ。 彼らの提案で、実は案外近かったマリ側の国境へと向う。 着いた場所はただのバス乗り場だったので、イミグレへと入国のスタンプをもらいに行った。 彼らはマリの人なのか、何なのか、今度は入国の審査は必要がないとのこと。 その為、単身、すぐ近くにあるイミグレの事務所へと向った。 事務所が少し離れた場所にあるのは、それがセネガルとマリを繋ぐ国際列車の駅の近くにあるからだ。 早速、それらしき建物に入ろうとすると、一人の外国人が足早に出て来たのだが、挨拶もそこそこに立ち去ってしまった。 どんなイミグレなのか、これから何処へと向かうのか尋ねたかったのだが、、、 事務所の中には、背の高い担当官と、その補佐であろう薄めの色の制服を着た人がいた。 まだどちらも若いようだった。 薄暗い事務所の中には、机が一つと、ボロいソファがあるだけだった。 ただ黙ってその作業が進のを見ていた。 パスポートに入国のスタンプが押され、ノートに記入され、そして、、、 「 5000CFA(=約1200円)!! 」 餌が欲しいのだそうだ。 僕は黙ったままだった、、、 「 5000CFA!! 」 そう奴がしつこく言ってくる。 もちろん餌をやる気など毛頭ない。 しかし、変に戦う意味もない。 まがりなりにも、相手はイミグレの管理官。 入国に際して、面倒があっては困るのだ、、、 しかし、そこで思い出したのは既に全ての作業は終了していることだった! それを思い出すと、俄然強気に出た。 「 なんで5000CFAを支払う必要があるのか? 」 「 いいから払えっ 」 「 何故? 」 「 俺には権利がある!! 」 「 ??? 」 「 入国させる権利だ、権利っ! 」 「 何を言いたいのかよく分からないけど、とりあえずそんなことはない筈だ。 ビザもちゃんと持ってるし、モーリタニアのマリ大使館でもちゃんと確認したし、ここにはそんなこと何も書いていないし、隣のそいつ(部下)だってここでお金を払う必要がないこと知ってるぞっ 現に笑っているじゃないかっ! もし何か問題あるなら、日本大使館でも、そっちの外務省でも、何でも連絡してからだっ! 」 「 いいから、5000CFAだっ 」 こっちもかなり強気だったが、相手も何故か強気だった。 そんなお金を払う義務など当然ないし、しかも今では入国スタンプはもう押してあるのだ。 それを思い出すと、頭にきて、更に強気になっった 「 いいからパスポートを返せっ!! 」 そう言って、管理官の手中にある、今では人質のようになってしまった、パスポートを強引に取り戻そうとした。 すると、予期せぬ行動に驚きつつも、少し揉み合いになり、管理官は怒って僕にそこに座れという。 しかし、こちらも怒っているのだ。 怒っているどころか、頭に来ているのだっ! すんなりと言うことを聞いて座る筈がないっ。 全て必要なことは終わっているし、これから先へと向うバスのチケットだって購入済みなのだ。 こんな所で余計な時間を食っている場合ではない。 そして、最終的に口から出た言葉は、、、 「 いいかっ もう一度。 この目を見て言ってみろっ!!!!! 」 「 言っていることが本当なのかどうか、もう一度目をみて言ってみろ! 」 すると、数秒沈黙と睨めっこが続いた後に、さっきまで強気だった管理官もさすがに臆したのか何なのか、「 いや~、よくやったよ 」とか言いながら、ポンッ とパスポートを投げてよこした。 それなら、最初からそうすれば良いのに、、、 そう思った。 もちろん、こちらが正しくて、あちらが訪問客である外国人から不当にお金を巻き上げようとしてるのだから、あちらに勝ち目はないのだ。 それが分かっていての勝負だった。 まあ、あんまりにも強気になり過ぎた面もあるが。 実際、数年前までマリの賄賂攻めは相当なものだったらしい。 そんなことを知ったのは後でのことだが、そんなに簡単に餌をやる程こちらも裕福ではないし、ヘタレでもないのだっ。 とにもかくにも入国手続きを完了した。 最後に吐き捨てるように言った「 If you give me a problem, I will give you a problem !! 」 この言葉の意味を解して、今後は真面目な人間になってほしいものだ。 しかし、後で地元民にこの話を盛大にすると、それは地元民の間では至極当り前の出来事のようだ。 外国人のように弱いようで強い立場の者とは違い、地元の人々は助けてくれる機関や組織は存在しないからだ。 だから皆ブチブチ文句は言うものの、この腐った環境をどうすることも出来ないらしい。 馬鹿な話だが、こちらではそうらしい。 そんなこんなでやっと乗ったバスは、25人乗りの中型のバスだった。 木で造られたベンチが四隅を囲うように置かれている以外は何もない。 その四つのベンチに22人が座り、その真ん中のスペースに更に3人の人が何とか座っている。 間違いなく狭い。 かなり狭い。 足も動かせない程、まっすぐ座れない程、背中が歪む程にその場所は狭かった。 もちろん全員同じ環境だ。 その中で、文句を言わない奴がいない筈がない。 皆、口々に不満を言い合っていて、最後には誰かしらがキレてしまい、車内で大喧嘩となる。 まあ、いつものことだ。 不可解なのは、乗車に際して、手に洗面器やらバケツやらを持ってくることだ。 預ければいいのだが、どうやらそれには水か水物の何かが入っているらしい。 別に持ち込んでも良いのだが、それをそのまま足下に置かれたら、足下のスペースが更に狭くなるだろうっ!? 、、、そんなことを考えたり、他の皆のことを懸念するのは、きっと日本人であるこの自分だけなのだろう。 それらのお荷物である手荷物を、上手にベンチの下にアレンジしながらやったのは、結局僕だった、、、 みんな、、、 頭を使おうぜぃ。 西日が車内に入りだした。 態勢がキツいのも然ることながら、西日が当るのも相当ツラい。 見上げれば、乗客のほとんどは顔に汗を流している。 不思議とぶ厚いジャケットを着ている人もいる。 真ん中に座っているお婆ちゃんは、疲れたのだろうか、うな垂れてしまっている。 先程まで小競り合いをしていた人たちも、今ではうまくやっているのか疲れたのか、静かにしている。 窓の外に目をやれば、「 悪魔の根っこ 」と言われるバオバブの木がたくさん見える。 幸い道は綺麗に舗装されていたので、その面だけは良かった。 それらを見て、心に思い浮かぶのは今日の一日の大騒ぎだ。 朝から何だかいろいろあった、、、 しかし、マリの旅はまだ始まったばかりなのだ。 Copyright (C) HITOSHI KITAMURA All Rights Reserved.
by hitoshi280477
| 2006-02-01 16:32
| Mali
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