モプティの街は小さいが活気のある街だ。 地元住民の居住地となるオールドタウンと、商売が盛んなニュータウンという構成になっていて、人、車、物が常に砂埃をあげながら行き交っている。 そして、他の村や集落から比べたらモプティはかなりの都会のようで、ここまでわざわざ買い出しに来る人も多いとのことだ。 旅行者にとっては、ここから数時間で行けるジェンネや、ニジェール川下り、黄金の都トンブクトゥ、それにドゴンの国と様々な場所への基点になる街だ。 その分、旅行者目当ての輩やドゴン・トレッキングのガイド志望の人たち、小遣いや飴玉をせびる子供たちと面倒な事もそれなりにあるのだが、、、 実際、僕もここを基点にジェンネ、ドゴン、それにバニ川の中州にある集落に行ったりした。 ニジェール川下りには元々興味もなかったし、時期も乾期とあって相当日数がかかってしまうこともあったし、黄金の都と言われていたトンブクトゥにも特に行くつもりはなかった。 それでも、ここを基点にして動く事は、マリに来ようと思っていた時から考えていた事だ。 モプティの街のサイズはちょうど良く、何か必要ならそれなりに物は手に入るし、物価も安いし、人々もそれなりに親切で笑顔が多かった。 宿のある街の北側までは、いつもバニ川にそって15分程歩く事になるのだが、そのちょっとの歩く事が楽しい所なのだ。 というのも、バニ川というのはすぐ近くでニジェール川と合流しているので、たくさんの船が行き来している様子がいつも見える。 それに、川には中州があって、そこにはフラニーが住んでいて、その人たちが生業としている川での洗濯の様子がいつも見えるからだ。 更に、その川沿い道には背の高い街路樹が続いているので、いつも日陰になり、この辺りの強い日差しを遮る事も然ることながら、常に爽やかな風が吹いているのだ。 そんな所を、顔見知りになった人々と挨拶をしながら歩くのが僕の一番気に入ったことではあった。 もちろん、「 中国人っ 」とか、「 ジャッキー・チェン 」とかも散々言われたが、そういうことは何処でも言われて来たので、そこまで気にはならなかったが、それ以上に人々の笑顔の多さに感心させられる事が多かった。 ニジェール川を下っていくと、途中にはその川岸が砂漠に続いていたり、カバが間近に見えたり、かつての交易路を辿るとあって旅行者にも人気らしい。 ただ、乾期も終わりのこの時期には、ニジェール川の水量がかなり減り、トンブクトゥまで行くのにも5日から6日かかると言っていたのは実際に行った日本人から聞いた話だ。 普段は3日くらいと言われているが、水量は減っても運ぶ荷物を減らすわけではないので、その船底が水底にぶつかって座礁したような状態になってしまい、その状態から脱出するのにかなりの時間がかかってしまうそうだ。 笑えることに、船は絶対と言って良いほど荷物を減らさないので、出発してから数百mにも満たない所でスタックしている。 まあ、無謀な程大量の荷物を無理矢理にでも運ぼうとするのは、典型的なアフリカン・スタイルだ。 小舟は近くの集落や、中州や対岸にある集落へと人が行き来するのに使われている。 言わば、水上タクシーだ。 しかし、結局は乗り合い水上タクシーなので、いつも人をいっぱいいっぱいに載せてその小さな小舟は進んで行く。 もちろん人力なので速度は出ない。 人々がまだ船を待っていたり、乗り込んでいたり、辺りで商売をしていたり、佇んだりしている中、今日の終わりを告げる夕陽が沈んで行く。 綺麗な地平線があるわけではないが、水面に浮かぶ火柱の様な夕陽の様子。 また、その夕陽が造り出す黄昏時の何とも表現し難い色合いの世界。 それらを背景に人々の生きる様が浮かび上がっている。 そんな瞬間を目にする事が出来る。 「 アフリカの太陽 」については皆が口を揃えて言う、、、 「 アフリカの太陽は大きい 」と。 それを、僕はここモプティに来てやっと実感した。 いつの頃からか意識していて、やっと目にしたアフリカの太陽は、やはり大きかった。 それは、とてもとても大きく見えて、どこか感動せずにはいられなかった。 感動しない筈がなかった。 あの光景を目にした者ならば、きっと誰しもが、、、 もちろん地元の人にとっては当たり前の光景だが、僕にとってはそれはきっと忘れることのない光景になった。 普段目にする事が出来ないからこそ、そこにはとてもつもない感動があり、また忘れることのない貴重な経験になるのだろうと思う。 西アフリカの旅を始めてからここまで相当急ぎ足で来てしまっていたので、どこかで少しゆっくりしたいとは思っていた。 それがモプティで良かった。 ここまでの道のりで、モプティほど精神的にも肉体的にもゆっくり出来た所はなかった。 長い間一人で旅をしていると、ペースを保っているようで無理をしていたり、どこか鬱になってしまっている部分も出てくる。 そういう時に必要なのは、やはり急用であり、せめてゆっくりすることなのだ。 しかし、ここはアフリカなのだ。 街に出てゆっくりすることなど出来るわけがなく、宿にいても落ち着かない事も多いし、それに西アフリカはその質に見合わない程物価が高い。 そんな所でゆっくり出来る筈がないのだ。 しかし、モプティに来て、それがやっと可能になった。 人から聞いていた以上に、僕はモプティの街が気に入ってしまい。 最終的には、ジェンネとドゴンの前後も合わせた全部で9泊もしてしまっていた。 それも、いつの間にか。 実際は、ドゴン後は体の疲れのせいかお腹の張りがヒドくてゆっくりしたかったのと、人と待ち合わせをしたりという事情があったが、それがなかったとしてもそれくらいの期間はいただろうし、恐らくもっと長居をしてしまっていたことだろうと思う。 出発する日になって、10日間という長いようで短かかったモプティの街での出来事をしみじみと思い出してしまっていた。 実際、今までも一つの街に10日間も滞在するということは稀だ。 来た頃はまだ屋台にも馴染めず、なるだけ旅行者用の高いレストランで食事をしていたこと。 それが、今度は一転して屋台でサラダを食べたり、串焼きを求めて街を彷徨ったり、、、 始めの頃は人との距離を明らかに開けていたが、人々の笑顔によって、僕の人々に対する姿勢や態度も少し変わったことと思う。 今となっては、全てが良い思い出となり、いつも食べに行ってたバスターミナルにあるコーヒー屋のおじさん、毎晩のように食べていたサラダ屋の女の子、よくジュースを飲みに行った酒屋さんのおじさんたち、嘘をつかない事からひいきにしてた商店のおじさん、宿の隣に住んでいた可愛いフラニーの少女、、、 そんなモプティの人々の顔が、ここを去る時になってすごく鮮明に頭の中を過って行った。 バスに乗る為にターミナルまで歩いて行ったが、最近強くなりかけていた風がやけに強くなっていた。 あれほど遠くまで見えていたバニ川の中州や向こう岸も、強く照り付けていた太陽があった空も、爽やかな雰囲気のあの川沿いの道も、それら全てを包み込む様な砂埃が巻き上がっていた。 視界は極端に悪くなり、とてもじゃないがこれ以上ここにいることは出来ないと思う程だった。 少し出ることを躊躇していた感じが僕の中にあったが、それはそれすらも吹き飛ばす程の強い風だった。 後になって考えてみれば、あれはこの地域に吹く ハルマッタン という風であったのだろうと思う。 ちょうどこの時期に吹く風なのだそうだが、僕にとっては初めての季節風だった。 そんな強風と砂埃が舞う中を歩きながら思った。 きっとこのハルマッタンは、モプティの街を出る事を渋っていた僕の背中を押す為に吹いたのだろう。 「 ここにはもういちゃいけないよ、、、 」と自然がそう言っているのだっ! 、、、などと勝手にそう捉えることにした。 そっちのほうが、それらしくて良いではないかっ? モプティの街よ、さようなら。 またいつか会う日まで、、、 最後はそんな気分だった。 Copyright (C) HITOSHI KITAMURA All Rights Reserved.
by hitoshi280477
| 2006-02-11 16:57
| Mali
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