Mali vol.12 「 移動型動物園? 」

 モプティの街を出ても、ハルマッタンの強烈な風と砂埃はすさまじい勢いで吹いていた。 僕の乗ったバスは古くて、しかも窓が所々ないものだから、そんな中を進むのは困難だった。 進行方向を砂埃に遮られているとはいえ、明らかに力のないバスではあった。

 目指すブルキナ・ファソのボボ・デュラッソという街は、ちょうどモプティから南に下った方角にある。 そこまで行くのには、乗り合いバスを乗り継いで行けると聞いていたが、実際その方面へのバスをモプティで調べてみると、直行で行くバスを発見したのだった。 聞けば、一晩でボボへ到着するとのことだ。

 そこで見たバスは、中型の古いメルセデスのバスだった。 厳つい面持ちをしているものの、車体がボロ過ぎていて、その風体には少し嫌な予感を感じさせるものだった。 下調べに行った段階では気が付かなかったものの、実際乗ってみて驚いた。 想像以上にボロいのだった、、、





 25人乗れるというこのバス、確かに25人は乗れるようになっているのだが、これが他の先進国なら定員は多くて12名くらいだろう。 何故そんな小さなバスに、推定定員の2倍以上の人が乗れるのかというと、そこにはちゃんと25人用の椅子が備え付けられているからなのだ。 しかし、この椅子が厄介なのだ、、、

 単純な計算で、横5人 X 縦5列で25人だ。 しかし、それは計算の上だけで、実際にそうやって横に5人座るのは無理があるし、縦に5列だって足下のスペースを考えずに算出されたものなのだ。 そもそも、中型のバスなのだから、横に5人座ること自体とんでもなく大変だ。 どうみても幼稚園児くらいのサイズの人間しか座れない様な椅子に、大人が5人、しかもその真ん中は背もたれも無い補助席(=板を渡しただけ)なのだ。

 はっきり言って、無理がある。 というか、無理だ。



 そんな狭いスペースに、大の大人が5人も座るというのがどういうことかというと、、、 肩はぶつかり、体はねじれ、足はほとんど動かせない状態だ。 しかも、それは全員の折り合いが付けばの話だ。 中には、先に座ってスペースを広めにとり、他の人のことなんかを考えない人もいる。 いや、実際僕の座っていた列の反対の端っこに座っていた老人もそうだった。 こちらが何度か文句を言わないと、詰めてくれないのだった。 もちろん、配慮なんかない。 自分だけが、みんなのことを考えているようで、馬鹿らしくなってしまうのがオチだ。





 厄介なのはそれだけではない。 通常、荷物を預けて、屋根の上に載せてもらうのだが、そういった場合にはお金を請求されることが当たり前なのだ。 これは西アフリカの旅を通して経験して来たことなので、今更どうでも良いのだが、困るのは地元の人々たちがそれを嫌って車内に中途半端なサイズで、変な手荷物を持ち込んでくることだ。

 明らかに屋根の上に載せた方がよいスーツケースや、野菜かなんかが入ったズダ袋なんかはもちろんのこと、ステンレス製の鍋やプラスチック製のやかん(何故か水をいっぱいに入れている)などもある。 いつか東南アジアで見た蛇や虫こそないものの、変な手荷物ばかりだ。 後は、杖とか、、、

 そんな物が狭い車内の場所を更にとってしまうのだから、これまた大変だ。 トイレ休憩や食事休憩といった乗り降りがある度に、それら荷物と人をかき分けて行かなくてはならないのだ。 また、水をいっぱいに入れたやかんのことだって、気になってしょうがない。 本当に、しょうがない人たちだ、、、





 とんでもない程の窮屈な場所で、我ながら良くやったと思う程、僕は寝てしまっていた。 後で考えてみると、よくあれだけ熟睡出来たと思うが、よほど疲れていたのだろう、、、

 夜中にふと起きると、バスは停まっていた。

 ガラス窓がないので、そこから顔を出してみると、どうやら食事休憩のようではあった。 道路沿いに幾つかろうそくの灯火や、今にも消えそうな薄暗いランプの光があった。 たくさんの人が集まっている場所は、ここ一番のレストランらしく、人々がその明かりとテレビに群がっていた。

 寝ぼけていたせいで、特に何かを食べたくはならなかったが、とりあえずガラスのない窓を何とかしようと思って、ガムテープを買いに行った物の、言葉が通じず、通じてそうでも「 ない 」とのことだった。 しょうがないので、そこに転がっていた段ボールを拝借することにした。





 日が暮れてからの車内は極端に寒かった。 それも当たり前だ。 外は砂漠と荒野が入り混じっただけの感じのところなのだから、日中は極端に暑く、日没後は極端に寒くなるのだ!

 先程拾って来た段ボールを、頭で車体に押し付けるようにして、何とか隙間風を凌いでいるものの、やはり寒い。 前に座っている男たちは、冬物のジャケットを着ているし、後ろの婆ちゃんは布をグルグル巻きに着ていた。 僕も長袖を着てはいたが、やはり寒かった。 何せ、ガラスのない窓は他の場所にもたくさんあるし、運転手は居眠り運転防止の為か、窓を閉めたりはしなかった。

 まともなヘッドライトも付いていないので、前方に広がる世界は正に闇の中だった。 そんな所を、こんなバスで進んでいるのだ。 始めのうちはどこか落ち着かなかった。 何せ、寒くて、狭くて、不愉快で、、、 それに、到着時間を計算してみたら、夜中に国境を越え、そして明け方にボボに到着する予定だったし、、、





 またうたた寝をしていた。 今度は起きると同時に、バスが停まった。 しかも、道路の真ん中にだ。 数人の乗客が降りて行く。 もちろん人をかき分け、乗り越えてだ。

 見ると、そこには建物があった。 ここが国境なのかと思い、尋ねるがどうやらそうではないらしい。 何だか分からないが、どうやら休憩時間のようではあった。 その隙に、何処とも分からぬ場所で小便をしたりした。 何せ、何も見えないのだ。 何処で小便をしているのかなんて、分かる筈がないし、気にする必要も無い。



 しばらくすると、皆がバスに戻ったので、僕もいち早く座席に戻るようにした。 相変わらず最後部に座っている奴は、先に乗ってこない。 しかも、それを誰も待たない。 バスの前方にしか乗降口はなく、どの列の補助席も埋まっているのだから、少し考えれば最後の列の人が気をきかせて先に乗るべきだし、他の人もその人を待つべきなのである。 しかし、こちらの人間はそれすらも計算出来ないし、他の人のことなど考えて行動をしたりはしないようなのだ。 全くどうしようもない。



 そして、座ってからも、「 狭い 」とか「 寒い 」だとか口々にうるさい、、、 困るのは、そんな小さなことで口喧嘩が始まることだ。 こちらにしてみれば、喧嘩したってしょうがないのに、些細なことで大きく喧嘩するのがアフリカ人だ。 本当に馬鹿らしい。 喧嘩した所で、お互いや周りの人間が気分を悪くするし、ましてや何も変わらないのに、、、

 しかし、最悪なのは、当事者以外の第三の人間が、横から口を挟んで来て、それで更に喧嘩がエスカレートすることだ。 黙っていれば良いのに、何故か関わってくるのもアフリカ人だ。

 そんなことを夜中の3時にバスの中でやったりしているのだ。 どうしてそうなのだろうか? 皆がイライラしているのも分かるし、大変な思いをしているもの分かるが、これだけは意味が分からない、、、 本当に馬鹿らしい。 どうしようもない。



 意味の分からない4時間を狭くて、寒くて、不愉快なバスで過ごした。 見ればもうすぐ夜明けである。 後で「 きっとそうなのだからだろう? 」と思ったのは、これより先の道はデコボコが少し多かったことだ。 前方を照らすライトがないのだから、そこを進むのは危険だ。

 だから中途半端と思える場所で休憩・睡眠時間となったのだろう。 それでも、寝るなら、寝ると教えてくれれば良いのに、、、 本当に配慮のない人たちだ。

 夜明けの道をバスが進む。 南進していたお陰で、僕の方には朝日が辺り出していた。 そのお陰で少しは暖かくなった。 見ると、そこは乾き切った大地というのではなく、灌木が茂った大地だったのだが、特に大きな木を目にすることも無く、ただつまらない灌木がずっと続いていた。



 しばらく走り続けると、朝食の時間になった。



 確か予定では、この時間にはボボに到着している筈だったが、やはりアフリカの移動に予定通りなんてものはないのだ。 そもそも、時間のことなどを気にしている僕も悪い。 期待してはいけないのだから、、、

 朝食は飲み物だけにした。 これから先に何時間かかるのか分からないのに、途中でトイレに行きたくなったりしたら困るからだ。 皆が準備が出来た頃、また車内に戻った。 そして、また同じように乗る順番が悪く、人が人を跨いだり、座席を乗り越えたりしている、、、 いい加減、少しは頭を使って欲しい。





 途中で検問もあった。 こういう場合、外国人旅行者としては身構えてしまうものの、何故かこちらでは外国人にはあまり関わってこないのだ。 ただ、地元の人々、しかもその国の正規の身分証を持ってない訪問者などは、恰好のターゲットになり、そして餌を求められるのだ。

 やり方もヒドい。 検問なら、バスを降りて全員をチェックしたりすれば良いのに、そういった身分証のない人たちや、違う種類の身分証を取り上げて、事務所に戻って行ってしまうのだ。 だから、取り上げられた人たちは、わざわざバスを降りて、餌を与えて、人質になっていた身分証なりなんなりを取り戻すのだ。 どうしようもない。





 そんなこんなを一晩中繰り返していた。 ハッキリ言って面倒な移動だった。 バスは狭くて、寒くて、不愉快だし。 同乗者は感じの悪いのが多いし、というか不可解な行動が多過ぎてイライラしたし。 乗り降りを何度やっても、同じことの繰り返しで口喧嘩ばっかりだし。



 いつ着くか分からないし。

 窓はないし。

 埃っぽいし。

 足は動かせないし。

 体は曲がったままだし。

 腹は減ったし。

 何が何だかよく分からなくなっているしっ!!





 バスもそろそろボボの街に近くなった頃、事件は起こった。

 あれ程、人々が興奮した状態になっているのを見たことは久しくなかった。 きっと誰も彼もが疲れていて、ある種の異常な精神状態にあったとも思われるが、あれ程後で思い返してみても驚いて、そして笑ったことはなかった。



 それは検問の近く、小さな集落を過ぎる時だった。 バスの速度が遅くなると、集落からたくさんの物売りたちがやって来た。 それはいつもの光景のように思えたのだ。 しかし、タイミングが悪かったのか、良かったのか? 売り子たちは「 バナナ 」を手にしていたのだった!! それを目にした乗客は俄然大騒ぎ。



 「 バナナを頂戴っ! 」

 「 こっちもだっ 」

 「 こっちにもくれっ 」

 「 私も頂戴っ 」

 「 もっとくれっ 」



 それは正にバナナが飛ぶように売れて行く瞬間ではあった!!

 次々にバナナとお金のやり取りが行なわれていく。 中には10本近くまとめ買いする人もいたし、前の人に頼んで買ってもらおうとする人もいた。 後ろにいた婆ちゃんも、僕の脇の窓から、ほんの数cmしかない隙間でバナナとお金のやり取りをしていた。 前に座っていた男たちも、幾つものバナナを買っていたし、真ん中の補助席に座っていた兄ちゃんも、いつの間にかバナナを手にしていた。 気のせいか、車内は殺気だっていたような気がした。 それは正に、彼らの本能に何かを呼び起こす何かがあったような、、、



 あれよ、あれよと売れていくバナナを見ていたので、僕はポケットにある小銭にさえ手が届かなかった。 それ程速くバナナとお金の経済のやり取りは進行したのだ。 僕が唖然としている間に、一体どれ程のバナナが売られていき、そしてその何本が瞬時のうちに彼らの胃の中に詰め込まれたのかは分からない。

 結局、あまりの人々の勢いに押されて、僕はバナナを一本も買うことが出来なかったのだが、気の良い兄ちゃんがバナナを分けてくれた。 たくさん買い過ぎて余ったのか、それとも「 やっぱり基本はバナナだよ 」とでも言いたかったのか、、、 とにかく、僕は有り難く頂くことにした。

 僕はバナナを頬張りながら、今の出来事と、今までの出来事を頭の中で考えていた。 そして、思った、、、





 「 君たちは何者なの? 人間なの? 動物なの? 」と。

 短いながらもバス(檻)の中で一晩を伴にした彼らのことを、僕はきっと忘れない。

 そして、その経験から、貴重な「 何か 」を学べたら、、、 と願う。






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by hitoshi280477 | 2006-02-12 16:58 | Mali
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