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New Zealand vol.1 「 真夜中の尋問 」

 午前一時。 予定では午後11時45分に到着する筈だった飛行機は、シドニー空港で一時間以上の遅れが生じた為に、予定よりもかなり遅い深夜にクライストチャーチの空港に着いたのだった、、、 今朝4時起きして、6時40分の飛行機でシドニーへやって来て、次の乗り継ぎ便まで約9時間も空港で時間を潰してきている身にとっては、少々堪える出来事ではあった。

 来る前からある程度の覚悟はしていた。 仕事をしていないのに単身長期間に渡って海外を転々としている事、パスポートにイスラム諸国の渡航スタンプが多い事、環境保護の意識の強い島国に来ている事、近年急増しているアジア系移民に対して厳しい事、、、 そんな事などから、入国管理局である程度のことは予想していた、、、



 入国管理の担当官は、パスポートを見るや否や、まず出国の航空券の提示を求めてきた。 それはどの旅行者にも同じ事なわけで、特にNZのような島国ではよくあることだった。

 それに、オーストラリアに戻る予定のない僕は、今後の旅程のことも考えて予めシドニーでNZより先の航空券を購入していたのだった。 その為にオーストラリアから日本への復路の航空券はゴミとなり、またNZから先も往復で買った方が安いという変な理由ながらもそれを購入しておいたのだった。



 簡単な質問を受け始めたが、それがそのうちエスカレートしていき、後ろに並ぶ他の入国希望者がざわざわし始めるまで質問された。 要は「 何の目的でNZに来たのか? 」ということと、「 いつ出国するのか? 」ということだけを聞けば良いのに、いちいち「 仕事をせずに、一体どうやって旅費を賄っているのか? 」などと余計な質問をされたり、「 何の為にこんなにたくさんのイスラム諸国へ行ったのか? 」と西側諸国の入国管理局ではよく聞かれる質問もあった。

 僕としては、何か後ろめたいことがあったら、そのパスポートも使わないだろうし、それに僕がどうやって旅費を貯めたかなんて聞かれるとは心外だった。 それでも、担当官も仕事でやっているのだし、外国人を入国させるか、させないかという重責を担っているのだから、さもにこやかに返答するよう心掛けてはいた、、、



 荷物を受け取るまでの十数mの距離で、また別の担当官に捕まる。 勘弁して欲しい。

 そんなに怪しく見えるのだろうか? 何だか心落ち着かないまま、荷物を受け取り、今度は荷物検査へと進む。 普通、入国後の荷物検査なんて滅多にない話なのだが、ここは環境問題に真剣に取り組んでいる島国NZなのだ。 外来種や訳の分からない物を持ち込まれては困るのだろう。

 入国カードにでさえ、そういう類いの質問がたくさんあった。 乳製品などは、他の国でも持ち込みを制限している国もある。 ちょっと変わっていた点といえば、「 30日間以内にキャンプをしたか? 」、「 その時のブーツを今も履いてるか? 」などなどだ。 入国カードにそういった事を書き込んでいくのだが、もし仮に嘘の申告をして、それを発見されると、、、 なんと罰金が科せられているのであるっ!

 そんな面倒な事はごめんだと思ったので、とりあえず食べ物に関する質問には曖昧なことは避けるのが賢明と思い(食習慣が違い過ぎるので)、申告する事にした。 が、それが面倒なことの始まりだった、、、





 気が付けば、僕は拘束されていたのだった。 担当官はパスポートを持ったままどこか他所へと行ってしまった。 向こうの方ではたくさんの観光客がどんどん入国を済ませて、荷物検査を済ませて、あたかも「 この先はNZ!! 」とでも書いてありそうな出口へと向かっていく様子が見える。

 もう15分程待っている。 ここ2日ばかりは寝不足もあるし、今朝もかなり早かったこともあり、シドニーの空港でダルい9時間を過ごした後の身にとってはしんどい時間だ、、、 早く空港の外に出て、バスに乗り、宿に着き、ベッドに横になって寝たいのだっ!!

 なのに、パスポートという旅行者にとって命の次に大事な物を人質に取られては、為す術が無いのである。 この状況を、人はきっと「 拘束されている 」と言うのだろう、、、

 しばらくすると、やっと担当官がパスポートを手に戻って来た。 ほっとしたのも束の間、これからが本格的な荷物検査だった。 が、しかし、更にその前に果てしなく続く質問攻めにあった、、、



 「 何の為にNZに来ているのか? 」

 「 出国の航空券はもっているのか? 」

 「 これから何処へ行くのか? 」

 「 今まではどうやって旅行していたのか? 」

 「 どうして一人なのか? 」

 「 仕事をしていないのに、どうやって旅費を賄っているのか? 」

 「 どうしてこんなにたくさんのイスラム諸国に行ったのか? 」

 「 、、、? 、、、?? 、、、??? 」



 もう勘弁して欲しい。

 始めのうちはにこやかに接していたものの、こちらもかなり疲れているんだ。 これはトランジットで行ったアメリカはアトランタの入国管理局や、ものすごく寒い夜中の1時過ぎに止められたイギリスの入国管理局よりもキツい、、、 オーストラリアでは、少し説明すると「 ふ~ん、そうか 」という感じだったのに、、、 担当官の背後に見える時計は既に午前1時45分。

 結局、僕は、僕がまだ20歳の頃に始めた仕事のことから説明するはめになり、その仕事のことや、旅行のこと、家族のことなんかを交えた質問攻めをなんとか克服したのだった。





 そして、やっと荷物検査である。

 担当官は、二度、三度、僕にこれが僕の荷物かどうか、自分で荷物を準備したのかどうかを尋ねると、まずは小さい方のバックから取り調べは始まった。 一応、一通り中の荷物を出されると、何故か持参した僕の iBook に興味を示している。 しかし、それに留まらず、担当官は丸い手の平サイズの紙を取り出し、それでキーボードを拭くようにしている、、、 それが何なのか、尋ねてみると、、、



 「 ああ、これ? 薬物検査だよっ 」



 勘弁して欲しいものである。

 担当官は僕を疑っているのだろうか?

 いやいや、仕事なのだから、、、 と思っても、やはり疑っているから検査をしているのである。

 本当に勘弁して欲しい。

 その丸い紙は、一通りキーボードの上を拭くと、何やらたいそうな機械の中へと吸い込まれていった、、、 もちろん結果は「 シロ 」である。





 結局拘束が解けたのは、午前2時を過ぎていた。

 見れば、まだ到着ロビーにはたくさんの団体の観光客がウロウロとしていた。 きっと余計なものを持ってきて、税関で捕まっていたのだろう。



 約一時間もの拘束を受けた僕は、もう体力と眠さの限界に来ていた、、、 しかも、外は信じられないくらい寒い。 今朝出て来たケアンズとは気温が違い過ぎる。 こんな真夜中に、わざわざ街へ出て宿探しをするほどガッツは無い。

 そんなわけで、わりかし綺麗なこのクライストチャーチの到着ロビーで、一晩お世話になることにしたのだった。 まあ、先客も数人いたし、、、


New Zealand vol.1 「 真夜中の尋問 」_a0086274_16553519.jpg
 薄れていく意識の中で、僕は思っていた、、、


 「 僕の心配していたふりかけは、一体なんだったんだろう、、、? 」と。






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by hitoshi280477 | 2005-10-10 05:04 | New Zealand
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