ニージーランドの南島の西側に「 フィヨルドランド国立公園 」というのがある。 この国で一番大きな国立公園だ。 険しく起伏に富んだ地形や、密林と世界でも最も降水量の多い土地のうちの一つという条件が、この土地を特別な場所にしており、世界自然遺産として世界に認知されている。
大昔の超多陸ゴンドワナで見られた動植物の中には、この地域で今も生息しているものがいるらしい、、、 滞在していたクィーンズタウンの街からは、距離にして286Km。 途中、テ・アナウという街を経由して行く事になる。 一日ツアーに参加したとしても、丸一日バスに乗りっぱなしということになる。 それでも、この国の景色を代表する場所だけあって、ここを目指す旅行者の姿は後を絶たない。 背の高い木々に道路が覆われていることに気が付いたのは、もうフィヨルドランド国立公園に差し掛かった頃だった。 道路の両端に、居並ぶ木々の姿は、木漏れ日も手伝って、何処か幻想的な景観を造り出してはいた。 見上げれば、その先端が見えない事もないのだが、仰け反る程見上げないとよく見えない程、その木々は背が高かった。 聞けばこの背の高い木々は、ブナ科の「 Silver Beech 」という名で、ここの気候条件に適している事からこの地域の随所で目にする事が出来るのだそうだ。 近くのちょっとしたブッシュウォークでは、まだ若いブナの木や、苔類に蔓、シダ類などの雨林地帯に多い植物を目にする事が出来る。 ほんの30分くらいのウォークにも関わらず、その緑の世界を歩いていると、自然の素晴らしさに気付かない事はないし、何処か心洗われるような気持ちにならざるにはいられない。 今まで、そんなに感じた事はなかったが、誰か付けたか知らないが「 森林浴 」というのは非常に気持ちの良いものだ。 薄い緑に一面を囲まれた場所に、一人歩いていると頭に浮かぶのは自然とそんなことのみだった。 というのも、ここ南島の特にこのフィヨルドランドは、オーストラリア・プレートと太平洋プレートがぶつかっている境界付近に位置しているのだ。 なので、その辺りではこの2つのプレートが合流して高山断層を目にする事が出来る。 二つの海底プレートが衝突・合流、そして太平洋プレートが隆起する事によってこの高山地帯、すなわち南アルプスを形成している。 その為、ここフィヨルドランドでは、オーストラリア側のタスマン海から吹き付ける湿り気の多い風と雲が、多量の雨を降らせ、そのお陰で緑豊かな大地が造られているのだ。 そして、それは山脈の高い所では、氷河となっているのである、、、 実に変わっているのだ。 そんな山間を走っていると、緑の多さに感激し、山脈のそそり立つ姿に驚くが、もっと目を引くのはその山間の険しさと、その山脈の遥か上の方から流れ出る「 滝 」だ。 山脈の上に降り積もった雪や氷河が、夏に近付いている今の気温のお陰なのか、岩肌を滑るようにして流れ出ている。 そして、その滝は川となり、大地に吸収されるか、また再び海へと流れ出ているのである。 そんなことがもう何万年も続いているのだ、、、 このフィヨルドランド国立公園でも、一番の見所であるこの場所は、実の地理学上の正式名は「 フィヨルド 」なのだそうだ。 というのも、英語でいうところの「 サウンド 」は、この場合では川沿いの谷に海抜の上昇や地盤の陥没によって海水が入り込んで出来た入り江であり、一方「 フィヨルド 」は、氷河によって浸食された狭く勾配の険しい谷に、氷河の後退によって海水が入り込んで出来た入り江なのだそうだ。 まあ、細かい言葉の定義は置いといて、何がどうなのかというと、この入り江では海面から一気にそそり立つ山の景観が楽しめるということなのだ。 中でも「 Mitre Peak マイター・ピーク 」と呼ばれる山は、海面からそそり立つ山としては1682mで、世界で一番高いとされている。 その場所を通る時は、本当に信じられないくらいの強い風は吹いていた。 まるで台風でも来たかのような感覚に襲われるが、ここではそれが日常なのだそうだ。 しかも、近くには氷河があるような場所なので、一度風が吹くとその体感温度は、、、 かなりキツい。 この入り江が氷河によって削り取られていったという場所は、所々で目にする事が出来る。 もともと荒々しい顔つきをした岩山だが、氷河が進退することによって更に削られたとあってはその面持ちを更に荒々しくする、、、 「 氷河が岩を削る? 」 ふと、そんな疑問が頭を過ったが、それが約200万年以上前から続いているとあっては、納得せざるを得ない。 その長い期間では、地球の寒冷期や温暖期を何度か経験しているのだろうから、28年しか生きていない僕が頭で考えても無理な話であり、信じられないような話なのである。 ということは、僕は地球が生きているということの「 証 」を正に目の当たりにしたということになるのだった。 タスマン海からの湿った雲が、この山脈にぶつかり、それが雪を降らせ、そしてそれが継続的に続く事がこの山脈の上に氷河を形成している。 とはいえ、氷河もやはり氷と水の循環を繰り返すので、それが地上に近い所では滝となって人々の目に触れることになる。 夏も近いせいからなのか、その滝の規模も小さくはない。 年間降水量が6000mmという世界で最も雨が降る地域の一つというのは頷ける話なのだが、その量が他とは桁違いの為に、実際どれ程のものなのかは分かりづらいほどだ。 この入り江を散策するには、まずクルーズ船が一番なのだが、やはり一大観光地の船とあっては何をするのか心得ているのである、、、 近付けば、近付く程に大きい滝の水は、何処か神秘的な色をしていて、そのシャワーとも言わんばかりの水飛沫が船と乗客を飲み込んでくる、、、 ふと、振り返れば、その水飛沫と先程から出て来た太陽の光によって「 虹 」を造り出している。 ここに来るまではそれが見えないのだが、自然の不思議な一面をまた再び垣間見たような気がした。 ずっしりとして微動だにしなさそうなあの大きな山でさえも、何百万年という年月の前では成長してきたわけで、更にその山肌では肉眼では見る事の出来ない速度で氷河が産まれ、姿を変えて、また空へと戻っているのだ。 実に不思議な地球の姿であるが、これがここの日常なのである。 Copyright (C) HITOSHI KITAMURA All Rights Reserved.
by hitoshi280477
| 2005-10-14 05:11
| New Zealand
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